葉月の現想

2019年8月31日土曜日、晴れ。

今日は、一ヶ月間開催してきた人生初個展の最終日。


通い慣れた場所へ向かうため、起き慣れない時間に目を覚ました僕は、この一ヶ月のことをいくつか思い出しながら、一歩、また一歩と歩みを駅へと向かわせる。


『最終日か…』


誰に言うでもなく、言葉が自然に声に出て、まだ静かな街の中へと消えていく。


この個展が始まったのは、確かに一ヶ月前。

でも、思い返して思い浮かぶ出来事のすべてが、ついこの間起こったことのように感じられる。


そんな事を不思議に思う自分と、その不思議に何の違和感も持たない自分とが、左足と右足を前へ前へと進ませていく。


今月何度も乗った電車で東京駅に着いた僕は、今月何度も乗ったバスに揺られ水戸へ。

電車の中でも、バスの中でも、僕は同じように、この一ヶ月の間に起きた沢山の素敵と奇跡に思いを馳せていた。









『いよいよ始まりますね!!』


7月31日水曜日、夜。

人生初の個展の開幕を翌日に控え、僕は会場の設営作業を進めながら、抑えられない感情の高まりが声の大きさに現れていた。


時間が経つごとに、この個展で最も多く使われている色、“青”が会場を彩っていく。

カルピスの100周年を祝うため、一年間毎日作り続けてきた365個のデザイン達。そのどれもがいきいきとした表情を僕に向ける。

そんな風に見えてしまうのは、自分自身が作り出したこのすべてのデザインに対しての“愛”でしかないな、そんな詩人のような事を思っていると、


『嬉しそうですね。』


設営を手伝ってくれていたスタッフの一人に声をかけられる。

…どうやら思いっきり表情に出ていたようだ。



二度とないこの夏の始まりを告げるように文月から葉月にバトンが渡される頃、僕は入口に飾った横断幕の前にいた。


凡人が天才になるための

チャレンジの軌跡と奇跡。


僕自身がこの一年を振り返って考えたその言葉が、横断幕のど真ん中に書いてある。


『今の自分はどれくらい“天才”と呼ぶ事ができるだろう。』


『この一ヶ月が終わる頃に少しは“天才”に近づけているのかな。』


今となっては声に出したかどうかも分からないこんな言葉を、僕は文月の終わりだか葉月の始まりだかに考えていた。




そしていよいよ陽が昇る頃、忘れられない夏の幕が開いた。




8月1日木曜日。

真夏と呼ぶにふさわしい朝の中、僕は自転車で会場に向かっていた。

会場に着くと、パネルや横断幕が昨夜の設営時とはまた違った表情を見せてくる。


『よろしく。』


出迎えてくれたデザイン達にそう一声かけて、今月の定位置はここかな?と決めていた椅子に座る。


一ヶ月という長い展示期間に加えて、水戸という多くの人にとっての遠方という事もあって、夜のイベントまでは比較的ゆっくりかな?と思っていた10時ごろ、不意に会場の入口のドアが開いた。


『個展をやっていると聞いたのですが、もう始まっていますか?』


驚きを隠せない表情のまま、僕はその方を招き入れる。

聞くと、水戸にいる僕の知り合いからこの個展の事を聞いたそう。

予想外の来場者に対してしばらく会話が続く。

その方が興味を持ってくれた経緯や、どのデザインが好きか等、初対面かつ最初のお客さんの割にはよく話したなと思いつつ、その方の帰りを見送った後、僕はとある事に気づく。


誰かと言葉を交わす事で、自分でも気づかなかった事が発見できる。

言葉にして初めて抱ける思いがある。


当然と言えば当然な事なのだが、初日に感じたこの思いが、この一ヶ月の過ごし方みたいなものを少し柔軟にしてくれたのかなと思っている。


その後は比較的静かな時間が流れ、陽も落ち始めた頃、今日のイベントの関係者が到着し始める。


今日のイベントは、トークセッション。


東京で活動している僕が、水戸という土地で、茨城で活躍しているクリエイターの方達と話す場だ。


ミュージシャンで、大人の言う事を聞きたくないと

自分で会社を起こし、音楽で自分や周りの生活を支えている人。


世界一周をして様々な経験をした後、

今は茨城で多くのイベントを手がけている人。


こんな二人をゲストに行ったトークセッション。

会場に目を配ると、半分以上知らない人たちで埋め尽くされていた。

そこには、僕の挑戦があったからこそのきっかけと、沢山の水戸の仲間達が動いてくれた結果があった。


経験値とユーモアを兼ね備えた、素晴らしい司会者の進行のもと、時間は驚くほどスムーズに過ぎていった。


ここでもやはり、自分が話す事で初めて気づく自分の感情に気づかされたが、何よりも僕の心を奪っていったのは、ゲストと司会者の言葉の“深み”だった。


主催者→傍観者→主催者と、目まぐるしく変わる、いや、変えていた自分の立ち位置で、言葉という言葉が僕の頭の中を走り回る。


“一年”。


期間としては決して短くないこの時間に、時に短さと、時に浅さを感じさせてくれた言の葉の森の出口に差し掛かる頃、ある思いが僕の頭を支配し始める。


『より深く、より重く出来るのではないか。』


結論から言ってしまえば、僕は僕の隣から発せられる言葉の数々に圧倒されていた。

彼らの言葉に比べれば、僕の言葉には常に“まだ一年”という言葉が重くのしかかっていた。


そんな多くの収穫と、一つの大きな課題とともに幕を降ろした初日、この時の僕は、まだ自分が迷路に入っていることに気づいていなかった。




翌日。


まだ不慣れなままの水戸での生活には、昨日とは打って変わった静けさと、昨日と変わらない真夏の空気が僕を包んでいた。


時折訪れる人と昨日の余韻のままに言葉を交わし、それでいて大半の時間を一人で過ごしている中、


『どうしたらあんな風に言葉に深みを持たせられる?』


『そのために僕は今何を始めなければいけない?』


そんなことばかりを考えていた。

この一ヶ月は、それを探し出す時間なのだと、何の疑いもなくそう思っていた。


そうしている内に初週は過ぎ、僕は再び東京に戻る。






先日までの生活が嘘だったかのような東京での暮らし。

小さくて大きな課題を胸に抱きつつも、僕はどこか高揚している状態で毎日を過ごしていた。


ある日の午後、僕はとある人と話をしていた。

今回の個展に多大な協力をしてくれた人だ。

初日のイベントが大成功だったこと、それが自分に大きな影響を与えてくれたこと、そして、今は次の挑戦を全力で模索しようとしていること。


そんな言葉たちを淡々と聞いてくれた後、その人は口を開く。


『ある種一つの成功みたいな形にたどり着けて、だからこそ何とかこの後も何かをしなきゃいけないって思いすぎてないですか?今回のカルピスの件って、多分そういう始まり方じゃなかったと思うんですよ。もっと力抜いて、素のままでどうしたいかに向き合ってもいいんじゃないですか?』


この言葉を聞いて、僕は初めて自分が今迷路にいることに気づく。


先のことばかりに目がいってしまって、この一ヶ月が自分にとってどういう時間なのかということに向き合えていなかった。


一年前、確かに持っていたもがきと葛藤。

それでも、何故か焦りはなかったあの頃。

自分のアンテナのようなものがもしもあるのならば、それが反応するのを見逃さないことに自然体で集中していた六月。


成長しているかどうかではなく、確かにあの頃と今の僕の心は違っていた。

そして、今求めているものに対して、どちらの心持ちが良いのかも明白だった。






とても、晴れた気がした。






そうしてまた、水戸へ行く日がやってくる。

同じ景色の中、同じような静けさの中を、時折訪ねてくる人たち。

自分でも分かるほどの自然体で、僕は個展の一部になっていた。


そうこうしていると、再び扉が開き、真夏の中に二つの人影。

思いもよらぬ来訪者がやってきた。

初日に僕の隣で話してくれていたゲストの一人が、小さな可愛い命と手を繋いで入ってきた。

この間のこと、他愛もないこと、これからのこと。

何故かこの人とはまだ会うのは3回目なのに、とてもとても話しやすい。

そんな話を、彼の子が会場を駆け回る姿を眺めながらしていると、彼がふと、核心を突くような質問を僕に投げかける。


『誠さんにとって、この個展って何だと思います?』


今思っても不思議なくらい落ち着いて、僕はこう返す。


『自分にとってのご褒美だと思います。』


僕は自分で自分の言葉にハッとする。


人は必要な時に必要な人に出会うものだと思っているが、言葉もまたそうなのだと思い知らされる。

そしてそれは、時に自分が発する言葉の中にもあるのだと。


来てくれた沢山の人達には大変申し訳ないのだが、この言葉が、この一ヶ月間の間に出会った言葉の中で最も心に残っている。


自分で勝手に続けてきたデザインで、一ヶ月という長い期間開いた個展で、最も心に残った言葉が自分の言葉というのは、何とも世話がないというか、この挑戦らしいというか。


とにもかくにも、


こうして素敵すぎる空間で個展を開催できることも、


その中で優雅すぎるほどの時間が過ごせていることも、


普段見られない数々の微笑ましい景色に出会えることも、


自分のことをこんなにも話せることも、


誰かの思いをこんなにも聞けることも、


たとえ遠くても会いに来てくれる人がいることも、


全ては僕がこの一年やってきたことへのご褒美なんだ。

等と、少し図々しくも聞こえるようなことを、本気でこの瞬間から思うようになった。









日が暮れかけた夏の空の下、

お構いなしに蝉が鳴いていた。









『次は水戸駅北口です。』


そんな思いを馳せているうちに、バスは何度目かの水戸に着く。

大多数の人にとって遠いと感じるであろうこの地も、一ヶ月も通えばそこまでの遠さも感じなくなっている。

何となく想像はしていたものの、いざ現地に着くと、またもう一段階上の“実感”のようなものを、大袈裟じゃなく息をする度に感じていた。


会場に行く前に、僕はとある男を迎えにホテルへ向かう。

この挑戦のテーマソングを作ってくれたシンガーソングライターだ。

“呼んだ”と言えばそれまでだが、彼は佐賀県からわざわざ歌いに来てくれた。

この週の初め、九州が雨であんなにも大変だったにも拘らず。


『久しぶり!』


『久しぶりです!』


約一年ぶりの再会だ。

僕は彼の表情を見て、変わらぬ空気を纏っているのを感じ、『うん、大丈夫だ』と、心の中で少し偉そうなことを思う。


余談だが、彼がこの挑戦に歌を作ってくれたとか以前に、彼の歌というか、彼の声が大好きだ。気持ちを代弁してくれているような歌詞は、聴き手でありながら歌い手でもあるような心地よい錯覚をくれ、自分でも知らないような最短ルートで心に届くその歌声は、暖かい世界に心を運んでくれる。


そんな人の歌声を、また今日も聴けるのだとワクワクしながら、最終日を迎える個展会場へと歩いていった。

会場へ着くと、そこは今日で終わりということを感じさせないほどのいつも通りの空間。

一ヶ月間展示し続けたデザイン達は、最早インテリアの一部なのではないかと思えるほどに空間に馴染んでいる。


初日のイベントのことや、期間中のこれまでのことを話しながら、訪れてくれる人たちと話しながら、静かに確実に過ぎていく時間が、陽の高さでフィナーレが近いことを知らせてくる。



開場も近づき、徐々に人が集まりだす。



来てくれる人たちの顔を見て、より一層“最後”の実感を感じ始めた僕は、今日話す内容を頭の中で繰り返す。

言いたいことをどんなテンションで伝えようか、伝えるためにどんな言葉を選ぼうか。


そうして頭を巡っていた言葉達の、半分ほどが実は出番がなくなることになる。


主催者の知らない所で進んでいた幾つかの段取りが、この後の時間を思いもよらなかった方向へ持って行き、僕はもっと心の深くから言葉を選んでくることになるからである。









『乾杯!!』

お客さんとスタッフあわせて30人ほどが集まった空間の中、いよいよファイナルパーティの幕が開く。


見渡せば、僕にとっては全てが知った顔。

だが、目の前にいる人たち同士は知らぬ顔がちらほら。

みんなの表情を見ながら、


『今この瞬間、僕を通して色んな人が繋がっていく』


等と、またもや偉そうなことを心の中で思いながら、インタビュー形式の講演をするために席に着く。


初日のイベントで体感させてもらったこと。


どういう思いが期間内に生まれたかということ。


Yahoo!ニュースに載ったこと。


個展のノートに沢山の言葉と絵をもらえたこと。


この一ヶ月で起こった本当に多くのことを、少しでも伝わるようにと言葉を選び、聞いてくれる人たちの表情に目を配りながら、僕はこの瞬間を文字通り噛み締めていた。


一通り話し終え、次はいよいよ僕も待ち望んでいたライブの時間。


相変わらずの素敵な声が会場を包み、とある歌がとあるお客さん達に寄り添い終えた頃、

彼がおもむろに口を開き、話し出す。


『実はここで誠さんにサプライズがあります!』


完全に聞いていない段取りが始まり、この辺りから、つい2時間前に行った打ち合わせが

意味を失い始める…。


このファイナルパーティに最も遠くから来てくれていた大阪の方が立ち上がり、先ほどまで聴いていた歌でまだ震えたままの心で、声で喋り出す。


『今日は大阪の仲間達から寄せ書きを預かってきています。

 それを渡したいと思います。』


…?


完全に聞いてない話だ。

さっきまで歌声に感動していた僕の心に、さらに感動が上乗せされる。

みんなの思いを必死に僕に伝えようとしてくれる姿が心を奪い、そうやって選んでくれる言葉の一つ一つが心を暖めていく。


受け取った寄せ書きには沢山の言葉が書いてあるのは一目瞭然で、イベントが終わってからじっくり読ませてもらおうと思っていると、


司会者が唐突に口を開く。


『じゃあこの流れのままであれもいっちゃいましょうか♪』


…?


……?


“あれ”の差すものが何かを理解するのに少し時間はかかったが、まだ付き合いが1年半ほどのこの司会者の方が楽しくなってきていることにはすぐ気づいた。


実は、僕もこの大阪から来てくれた方にサプライズを用意していた。


細かい内容は伏せるが、この一年の挑戦の中で、この方達家族を想って描いたデザインと、詩がある。


それをパネルにして期間中ずっと飾っていたのだが、このパネルを最終日に贈ろうと、そう決めていた。


どちらかと言わなくても涙もろいほうである僕は、歌やサプライズでもう既にかなり心を揺らされていたので、感極まりすぎないように気をつけながら、ゆっくりじっくり言葉を選び、伝えていく。


気持ちも伝えて無事にパネルも渡し終え、ここからは打ち合わせ通りに戻すのかなと思っていると、今度はまた別の方が口を開く。


『下出さんへのお祝いの意味を込めて、

 みんなで一人ずつレイ(花の首飾り)をかけましょう!!』


ここでサプライズの渋滞はピークに達する。

ハワイにいるわけでもなく、先ほど飛行機から降りてきたわけでもない僕の首に、人一人がかけられる量としてはおかしな量のレイがかけられていく。

ある人は最早どのサプライズに感動してかはわからないが、泣いてたりもする。

僕はここで、今一度この個展のタイトルを思い返す。



凡人が天才になるための

チャレンジの軌跡と奇跡。



どこで何がどうなったのか、今みんなの目の前には、いい歳した男が顔も見えなくなるほどのレイをかけられている。


『少なくとも凡人ではこの絵面にはなるまい。』


『大きく括ればこの姿も天才の部類にはかろうじて入れるかもな。』


そうして半ば無理やりに自分を納得させ、ようやく僕は用意していたこの日一番の話を話し出す。









偶然とは思えないほどの軌跡に彩られた話を。












首にこれでもかとレイをかけたまま…。










☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

[以下僕の話し言葉]

今回この個展のためのパネルを作るにあたって、今一度デザインに不備がないかを確認しました。すると、これまでどのデザインにも入れていた“calpis since 1919”が入っていないものが一つありました。それがどのデザインかというと、“カルピス100周年まであと310日”のデザインでした。そう、310(ミト)なんです。この水戸で開催する個展の310(ミト)のデザインだけが未完成だったんです。

しかもこの話には続きがあります。

この310日のデザインを作った日が、去年の8月31日なんです。ちょうど今から一年前、未完成の忘れ物を僕はそこにしていました。そしてそれから一年経って、その忘れ物を拾うために、この個展というプロジェクトを完成させるために、今日みなさんに来てもらっています。

来てもらったみなさんに今日という日を存分に楽しんでもらって、みなさんのおかげで今日この挑戦が完結するのだと思っています。だから、偶然なんですけど、意味のある忘れ物を僕は一年前にしてました。一年間走り続けて、一年間その忘れ物に気づかなくて、そして今日、その忘れ物を取りに来ることができたと思っています。

そう出来たのは、今日という日にこの場に来てくれた人だけじゃなくて、期間中に足を運んでくれた方、個展に携わって支えてくれた方のおかげです。

本当に、感謝しています。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



これらの言葉の中に僕が事前に用意していたものは多くなく、そのほとんどが気持ちのままに言葉になったものばかりだった。

それなのに、どの言葉も本当にまっすぐ伝えることができたのは、この瞬間の空気を作ってくれた、今目の前にいる全ての人たちのおかげだと、今にも嬉し泣きし出しそうな感情を抑えて思っていた。




本当に沢山の心が動いてくれた時間も徐々に終わりに近づき、僕の目の前には幸せで満ち溢れた光景が広がっている。



『最後にとんでもないご褒美が待ってたなぁ。』



そう呟いて、またみんなの中に戻る。



『本当に来て良かったです!!』



みんながくれるダメ押しのような言葉に最後の最後でまたも感動させられ、いよいよこの一ヶ月の幕を降ろす時がやってくる。

寂しいか寂しくないかで言えば全力で寂しかったが、見送る人へ少しでも感謝が伝わるようにと頭を下げる。



最後に身内のみが残った会場でパネルを片付けると、会場は一ヶ月ぶりに展示のない空間へと戻っていく。

それはきっといつもの光景で、でも僕にとってのいつもの光景はもうそこにはなくて。



少し物思いにふけり談笑していたところ、僕はふと、外に設置した横断幕を片づけ忘れていることに気づく。



『横断幕片づけるの忘れてました!』



と僕が何となく残った面々に向けて言うと、



『手伝いますよ!!』



と声を返してくれたのはこの会場のオーナーだった。




自分で言うとおこがましいが、この個展を支えた二軸の二人が、最後の片づけに向かう。



『いいイベントでしたね』



『本当に終始幸せでした』



『下出さん本当にみんなに愛されてますね』



いくつか言葉を交わした後、片づけを終えたオーナーは会場に戻っていく。




僕は一人、始まった日と同じような夜空の下に佇んでいる。




同じに見えて確かに違うその場所で、僕はたたんだ幕に手を置き、目を閉じる。












夏の終わりを感じてか、

少し遠くで蝉が泣いていた。

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